夏になれば
冬ですが、
伊藤整の詩に多田武彦が曲をつけたこの歌は、
まぶたの中にその光景が浮かぶようで、
何故だか時々聴きたくなります。
夏になれば/伊藤 整
夏になれば みな浴衣で涼み
川すぢの祭には 華やかな灯がつく
あそこの家にゐて
何か寂しいときも 夜ねいる布団の襟にも
お使にあの坂道を下るときも
あなた自らさへ気づかずにつくる
あの笑顔の幸福さをなくしないやうに。
いつも鳩のやうに胸ふくらませて、
たまさか街で逢へば
何となく笑ましげに挨拶する、あの素直な美しさを
生涯失はないやうに。
私はそれのみのために、
嫁ぐ日になつても
母となつてまでもの
あなたを 心から祝福しよう。
街では誰もありがちな事だが
この世を私もしんじるために
あなたの笑顔にだけは不幸がうつらないやうに。